【医師監修】|2026.05.19|カテゴリ:皮膚感染症/褥瘡・皮膚潰瘍
ゲーベンクリーム(一般名:スルファジアジン銀)は、やけど(熱傷)・床ずれ(褥瘡)・手術創・びらん・潰瘍などの二次感染を防ぎ、創面の治癒を助ける外用抗菌薬です。1982年の国内発売以来、救急外来から在宅ケアの現場まで長く使われてきた、信頼性の高い塗り薬です。
実はゲーベンクリームは、銀イオン(Ag⁺)とサルファ剤(スルファジアジン)という”二種類の武器”を同時に使う独特の作用機序を持ちます。緑膿菌やカンジダを含む幅広い微生物に効果を発揮しながら、耐性菌が生まれにくい——そのユニークな特徴を、皮膚科専門医の視点で詳しく解説します。
1. ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)とは
ゲーベンクリーム1%は、一般名「スルファジアジン銀」の外用感染治療剤で、田辺ファーマ株式会社(田辺三菱製薬グループ)が製造販売しています。
「スルファジアジン(Sulfadiazine)」はサルファ剤の一種、「銀(Silver / Ag)」はその名のとおり金属の銀です。この二つの成分が1:1で化合したのがスルファジアジン銀であり、製品名「ゲーベン(Geben)」はドイツ語で”与える・施す”を意味するとされています。
日本では1982年に初めてゲーベンクリーム1%が発売されました。海外では米国で1974年に「Silvadene®」という名前で販売が開始されており、その後1985年に褥瘡などの皮膚潰瘍にも適応が拡大されました。
薬効分類は皮膚科疾患用薬(皮膚潰瘍治療薬)に属し、薬価収載日は2008年12月19日です。
後発品(ジェネリック)は2026年5月時点で存在しません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | ゲーベンクリーム1% |
| 一般名 | スルファジアジン銀(Sulfadiazine Silver) |
| 製造販売 | 田辺ファーマ株式会社(田辺三菱製薬グループ) |
| 分類 | 外用感染治療剤(褥瘡・皮膚潰瘍治療薬) |
| 剤形 | クリーム(1%) |
| 発売年 | 1982年(国内) |
| 後発品 | なし(2026年5月時点) |
2. ゲーベンクリームの特徴
ゲーベンクリームの最大の特徴は、銀イオンとサルファ剤という”二刀流”の抗菌メカニズムです。
●銀イオン(Ag⁺)による直接殺菌作用
ゲーベンクリームの主成分である銀は、細菌の細胞壁に作用して殺菌効果を示すだけでなく、細胞のDNAに取り込まれ、細菌の増殖をブロックすることが知られています。具体的には2時間以上の接触で細菌の増殖は止まり、増殖の速い細菌に対する影響がより強くなる一方、分裂の遅い創傷面や白血球などへの影響は少なく、選択的な細菌増殖抑制効果が期待できます。
●幅広い抗菌スペクトル+耐性菌が生まれにくい
スルファジアジン銀は、黄色ブドウ球菌・レンサ球菌属などのグラム陽性菌、緑膿菌・エンテロバクタークロアカ・クレブシエラ属などのグラム陰性菌、そしてカンジダ属などの真菌に対しても抗菌力を示します(MICはいずれも100μg/mL以下;in vitro)。
ゲンタシン軟膏などの抗菌薬と比べ、耐性菌を生じにくいとされており、長期間の使用が必要な深い褥瘡などでも比較的安全に使用できるメリットがあります。
●湿潤環境の維持+壊死組織の軟化
水中油型エマルション(O/W型)のクリーム素材であるため、滲出液が多い場合には滲出液をある程度吸収しながら剤形を保ち、逆に滲出液が少ない場合には創面への水分保持作用によって湿潤状態を保ちます。
壊死組織を浸軟させて剥がれやすくする効果もあり、外科的デブリードマン(壊死組織除去)を容易にします。また、適度な湿潤環境になりやすく、肉芽形成効果も期待できます。
●細胞外マトリックスの形成を助ける
ゲーベンクリームのような「補水性基剤」は、基剤と創面との界面に細胞外マトリックス複合体を形成することが報告されています(Murasawa et al. Wound Rep and Reg 2018)。
肉芽増殖の「骨組み」を作ることで、凹みのある創傷の治癒を内側から支えるイメージです。
●洗い流しやすく処置しやすいクリーム基剤
O/W型のクリーム基剤なので洗い流しやすく、日常の処置にも使いやすい特徴があります。
3. 適応疾患と使用方法
適応菌種と適応症
適応菌種は「本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌、カンジダ属」であり、適応症は「外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、びらん・潰瘍の二次感染」です。
具体的な使用場面の例:
– 熱傷(やけど):中等度・重症の熱傷創(Ⅱ度以上)の感染予防・治療
– 褥瘡(じょくそう/床ずれ):感染を伴う深い褥瘡
– 手術後の創感染:術創の二次感染
– びらん・潰瘍:静脈性下腿潰瘍などの感染を伴う皮膚病変
⚠️ 軽症熱傷(疼痛が主体のⅠ度熱傷相当)には禁忌です。塗布すると疼痛が増強するおそれがあります。
使用方法
1日1回、滅菌手袋などを用いて、創面を覆うに必要かつ十分な厚さ(約2〜3mm)に直接塗布するか、またはガーゼ等に同様の厚さにのばして貼付し包帯を行います。第2日目以降の塗布に際しては、前日に塗布した本剤を清拭または温水浴等で洗い落としたのち、新たに本剤を塗布します。
3つの重要ポイント
- 厚さ約2〜3mmが目安:薄すぎると抗菌効果が不十分になります。「クリームをたっぷり盛る」イメージで塗布してください。
- 毎回しっかり洗い落としてから新たに塗布:前日のクリームを残したまま重ね塗りすると、細菌を”閉じ込める”ことになり感染悪化のリスクがあります。
- 滅菌手袋・清潔操作を守る:素手で触れると外部からの細菌汚染につながります。自宅ケアでも使い捨て手袋を使用しましょう。
抗菌効果は塗布後すぐに創面に薬がとどまり、銀イオンが持続的に放出されることで発揮されます。1日1回の塗布で十分とされており、効果は1日程度持続します。ただし、創面の浄化・感染制御には複数日〜週単位の継続使用が必要です。
4. 使用する上の注意点
●主な副作用
副作用の初期症状として、発熱・のどの痛み・鼻や歯ぐきからの出血(汎血球減少の可能性)、痛みを伴って皮膚が赤くなる・皮膚の熱感(皮膚壊死の可能性)、発熱・湿疹・吐き気(間質性腎炎の可能性)などが現れることがあります。
局所症状として、塗布部位のかゆみ・灼熱感・接触皮膚炎なども報告されています。
●重大な副作用(頻度は稀ですが要注意)
- 汎血球減少・白血球減少・血小板減少:倦怠感・出血傾向が現れたらすぐに受診
- 皮膚壊死:塗布部位の皮膚が赤く腫れ、熱感・疼痛が強まる場合は使用中止
- 間質性腎炎・腎機能障害:スルファジアジン成分の体内吸収による
- ショック・アナフィラキシー:発疹・呼吸困難・血圧低下
- 高浸透圧状態:
広範囲熱傷に使用した場合、プロピレングリコールにより高浸透圧状態をきたすことがあるため、定期的に血清浸透圧を測定し異常が認められた場合には休薬等の適切な処置が必要です(特に乳児・幼児・小児の場合は注意が必要です)。
●禁忌(使ってはいけない方)
次の方には使用できません:①本剤の成分またはサルファ剤に対し過敏症の既往歴のある方、②低出生体重児・新生児、③軽症熱傷(疼痛がみられることがあるため)。
●特に注意が必要な方(事前に医師へご相談ください)
薬物過敏症の既往歴のある方、光線過敏症の既往歴のある方、エリテマトーデスの方(白血球減少が悪化するおそれ)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素〈G-6-PD〉欠損症の方(溶血を惹起するおそれ)、腎機能障害のある方(本剤の代謝が抑制され副作用が強くあらわれるおそれ)
は、使用前に必ず医師にお伝えください。
妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用することとされています。
●重要な基本的注意
サルファ剤の全身投与の場合と同様の副作用があらわれるおそれがあるため、長期使用は避けることとされています。また、感作されるおそれがあるので観察を十分に行い、感作された兆候(そう痒・発赤・腫脹・丘疹・小水疱等)があらわれた場合には使用を中止することとされています。
●日常ケアでの注意
- 市販薬はなく、医師の処方が必要:
2026年5月現在、ゲーベンクリームと同じ成分の市販薬はありません。 - 他の外用剤との混合は避ける:特にブロメライン軟膏やポピドンヨード製剤と混合すると、互いの効果が減弱するおそれがあります。
- 眠気を引き起こす成分は含まれないため、自動車運転への制限はありません。
- サルファ剤アレルギーがある方(バクタ等の内服歴でアレルギーが出た方)は使用できない可能性が高いため、必ず医師に事前申告してください。
5. 薬価と費用
ゲーベンクリーム1%の薬価は1gあたり12.8円(2026年度薬価基準・2026年4月改定)です。後発品(ジェネリック)は存在しないため、先発品のみとなります。
使用量は創面の大きさによって大きく異なります。以下は参考目安です。
| 使用量の目安 | 薬価(先発品) | 自己負担額(3割負担) |
|---|---|---|
| 10g使用 | 128円 | 約38円 |
| 50g使用(50gチューブ1本相当) | 640円 | 約192円 |
| 100g使用(100g容器1個相当) | 1,280円 | 約384円 |
| 500g使用(500g容器1個相当) | 6,400円 | 約1,920円 |
※2026年度薬価基準(2026年4月改定)。薬剤費のみの目安です。別途、診察料・処方料・調剤料などが加算されます。使用量や創面の大きさによって大きく変わります。
6. FAQ(よくある質問)
Q1: ゲーベンクリームはどんなやけどに使いますか?
A1: 中等度(Ⅱ度)以上の熱傷の感染予防・治療に使用します。添付文書上、軽症熱傷(主にⅠ度熱傷)には禁忌です。軽い赤みだけのやけどに塗ると疼痛が増強するおそれがあるため、必ず医師の診断を受けてから使用してください。
Q2: ジェネリック(後発品)はありますか?
A2:
2026年5月現在、ゲーベンクリームと同じ成分のジェネリックはありません。
そのため、処方される場合はゲーベンクリーム1%のみとなります。
Q3: 毎日塗り替える必要がありますか?
A3: はい。
第2日目以降の塗布に際しては、前日に塗布した本剤を清拭またはシャワー浴、温水浴等で洗い落としたのち、新たに本剤を塗布します。
古いクリームを残したまま塗り重ねると感染制御の妨げになります。毎回しっかり洗い流してから新たに塗布してください。
Q4: 緑膿菌感染の傷口にも使えますか?
A4: はい、使用できます。
スルファジアジン銀は緑膿菌を含むグラム陰性菌にも抗菌力を示します(in vitro)。
緑膿菌は一般的な抗菌薬に耐性を持ちやすい細菌ですが、ゲーベンクリームは耐性菌を生じにくいため、感染を伴う難治性創傷に適しています。
Q5: サルファ剤アレルギーがあると使えませんか?
A5: 使用できません。
過去にバクタなどのサルファ剤で発疹などのアレルギーが出たことがある方は、ゲーベンクリームも使えない可能性が高いため、必ず医師に伝えてください。
Q6: 妊娠中・授乳中でも使えますか?
A6:
妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用することとされています。
自己判断での使用は避け、必ず医師にご相談ください。
Q7: 新生児の傷口には使えますか?
A7: 使用できません。
低出生体重児・新生児はゲーベンクリームの禁忌に該当します。
新生児・低出生体重児では薬剤成分の代謝・排泄能が未熟であり、副作用のリスクが高いため使用してはいけません。
7. 皮膚科専門医解説 ゲーベンクリームの要点まとめ
- 適応:熱傷・褥瘡・手術創・びらん・潰瘍などの二次感染(中等度以上の熱傷に限る)
- 作用:銀イオンによる直接殺菌+サルファ剤による細菌増殖抑制の”二刀流”
- 抗菌スペクトル:緑膿菌・カンジダを含む幅広い菌に効果、耐性菌が生まれにくい
- 塗り方:1日1回、厚さ約2〜3mm。毎回前日のクリームを洗い落としてから塗布
- 禁忌:サルファ剤アレルギーの方・低出生体重児・新生児・軽症熱傷
- 費用:1gあたり12.8円(2026年度薬価基準)、後発品なし
- 長期使用は避ける:サルファ剤と同様の副作用があらわれるおそれがあるため、医師の管理下で使用する
やけどや床ずれ、難治性の潰瘍は、創の深さや感染の有無・全身状態によって最適な治療法が異なります。自己判断での使用継続は症状悪化につながる場合があります。
大阪の花ふさ皮ふ科グループでは、患者さんのライフスタイルに合わせた最適な皮膚感染症・創傷治療をご提案しています。 「やけどがなかなか治らない」「床ずれの傷口から膿が出ている」「潰瘍が繰り返しできる」とお悩みの方は、お気軽にご相談ください。皮膚症状のご相談は、大阪の花ふさ皮ふ科グループへ。
監修
皮膚科専門医・アレルギー専門医・医学博士 花房 崇明
- 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
- 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
- 医学博士
- 抗加齢医学会専門医
【所属学会】日本皮膚科学会/日本アレルギー学会/日本臨床皮膚科医会/日本美容皮膚科学会/日本抗加齢医学会
参考文献
- 田辺ファーマ株式会社. ゲーベンクリーム1% 電子添付文書(2025年12月改訂版). PMDA.
▶ 製造販売元による公式情報。効能・効果、用法・用量、禁忌、副作用、相互作用、特定の背景を有する患者への注意事項が詳細に記載されており、本記事の薬学的記述の主要な根拠。 - Murasawa H, et al. Wound Repair and Regeneration. 2018.
▶ ゲーベンクリームなどの補水性基剤が創面との界面に細胞外マトリックス複合体を形成し、肉芽形成の足場を提供することを示した文献。凹みのある創傷への有用性の科学的根拠の一つ。 - Rosenkranz HS, et al. Mechanism of antibacterial action of silver sulfadiazine. Antimicrobial Agents and Chemotherapy. 1972;2(5):367-372.
▶ スルファジアジン銀の抗菌メカニズム(銀イオンによる細菌DNA結合・増殖抑制)を示した古典的基礎研究。幅広い抗菌スペクトルと耐性菌の生じにくさの科学的根拠。
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