花房崇明のブログ
女性が円形脱毛症になる原因とは?
監修者 理事長:花房崇明 (はなふさ たかあき) [ 資 格 ] ・医学博士(大阪大学大学院) ・日本皮膚科学会皮膚科専門医 ・日本アレルギー学会アレルギー専門医 ・日本抗加齢医学会専門医 ・難病指定医 |
[ 所属学会 ] ・日本皮膚科学会 ・日本アレルギー学会 ・日本小児皮膚科学会 ・日本抗加齢医学会 ・日本美容皮膚科学会 |
1 円形脱毛症とは?
円形脱毛症(alopecia areata)とは円形から楕円形の脱毛斑を主に頭部に生じる後天性の脱毛症です。前兆や自覚症状は無く、突然に発症する病気です。眉毛やひげ、腕や脚など全身に生じることもあります。
2 原因は?
毛包(皮膚の中にある毛根を包んでいる組織)に対する自己免疫疾患(体が自分の組織を攻してしまう病気)と考えられています。 遺伝的に円形脱毛症になりやすい人が、疲労や感染症、ワクチン接種、出産やストレスなどを引き金に発症すると推察されていますが、原因がはっきり分からないことも多いです。1, 2)
精神的ストレスについては、ストレスに関連して上昇する体内のホルモンや炎症性物質が、円形脱毛症の発症や増悪に影響があると考えられていますが、その程度や詳しい機序は不明です。3)
新型コロナウイルス感染症やそのワクチンに よって誘発されたと考えられる 円形脱毛症の報告が近年相次いでいることが注目されています。4, 5)
3 円形脱毛症の合併症は?
アトピー性皮膚炎を合併することが多いと広く知られています。さらに、アトピー性皮膚炎を合併する円形脱毛症の患者さんの方が、より重症度が高いと報告されています。6)
他には、橋本病などの甲状腺疾患、尋常性白斑、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、I 型糖尿病、重症筋 無力症などの自己免疫性疾患を合併しうることが知られています。7)
4 他の病気の可能性は?
抜毛症(自分の手で毛髪を引き抜いてしまう病気)、男性型脱毛症・女性型脱毛症、休止期脱毛症(出産などを契機に生じる脱毛症で自然に治癒する)、牽引性脱毛症(髪を強く引っ張るヘアスタイルなどのために生じる脱毛症)、頭部白癬(頭皮の真菌感染症)、原発性瘢痕性脱毛症(毛包が炎症細胞によって傷害され、毛包が消失する不可逆性の脱毛症)、 腫瘍による脱毛症、梅毒による脱毛症、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、先天性の遺伝子異常による脱毛症など、様々な脱毛を生じる疾患と鑑別する必要があります。
5 女性と男性で違いはあるの?
現時点では、性別によって円形脱毛症の発症原因、症状の重症度、治療に対する効果が変わるといったはっきりとした報告はありません。
しかし、女性と男性で発症しやすい脱毛症は異なります。
・男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia: AGA)は男性ホルモンが関係し、頭頂部や生え際から徐々に進行する脱毛症です。
・女性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia: FAGA)は、男性型脱毛症と同様に男性ホルモンも関係していますが、女性ホルモンの減少も関与していると考えられ、頭頂部全体の髪が徐々に薄くなるのが特徴です。
また、原発性瘢痕性脱毛症は、若干女性の方が多いという報告があります。8)
6 治療法は?
年齢、重症度、発症してからどれくらい経過しているか、を総合的に判断し治療法を選択します。
ステロイドの外用、ステロイドの局所注射、局所免疫療法、点滴ステロイドパルス療法、紫外線療法、近年適応となったJAK阻害薬といった治療法が行われています。
当院では、ステロイドの外用療法、局所注射、紫外線療法を主に組み合わせて行っています。
症状の進行が速い場合や、重症度が高い場合は、点滴ステロイドパルス療法などを目的に総合病院や大学病院を紹介することもあります。
7 どれくらいで治るの?
円形脱毛症以外の合併症が無く、ひとつひとつの脱毛斑が発症してから1 年以内で、脱毛斑が数個程度と少数 の場合、80%程度の患者さんで 1 年以内に毛髪が回復すると報告されています。9)
また海外の報告では、34~50%の患者さんは 1 年以内に毛髪が回復するが、14~25%の一部の患者さんは症状が頭全体や体全体へ悪化し、その場合、回復率は 10%以下と考えられています。10)
8 何科を受診すればよい?
円形脱毛症は、上記のように鑑別するべき疾患が多数あります。
症状の出現時期や、脱毛病変部の紅斑や鱗屑、痂皮などの皮膚所見、毛髪以外の皮膚や全身症状などから円形脱毛症と診断します。また近年はダーモスコピーと言う、皮膚を拡大して毛包の状態を確認する診断方法も多く用いられます。皮膚科のトレーニングを積んだ皮膚科専門医に受診し、診断・治療を受けるのが安心でしょう。
参考文献
1)Betz RC, Petukhova L, Ripke S, et al: Genome-wide meta-analysis in alopecia areata resolves HLA associations and reveals two new susceptibility loci, Nat Commun, 2015; 6: 5966.
2)Petukhova L, Duvic M, Hordinsky M, et al: Genomewide association study in alopecia areata implicates both innate and adaptive immunity, Nature, 2010; 466: 113― 117.
3)Ahn D, Kim H, Lee B, Hahm DH: Psychological StressInduced Pathogenesis of Alopecia Areata: Autoimmune and Apoptotic Pathways, Int J Mol Sci, 2023; 24: 11711.
4)Kageyama R, Ito T, Nakazawa S, Shimauchi T, Fujiyama T, Honda T: A case of telogen effluvium followed by alopecia areata after SARS-CoV-2 infection, J Dermatol, 2023; 50: e32―e34. 5)Nguyen B, Tosti A: Alopecia areata after COVID-19 infection and vaccination: A cross-sectional analysis. J Eur Acad Dermatol Venereol, 2023; 37: e7―e8.
6)Mohan GC, Silverberg JI: Association of Vitiligo and Alopecia Areata With Atopic Dermatitis: A Systematic Review and Meta-analysis, JAMA Dermatol, 2015; 151: 522―528.
7)Huang KP, Mullangi S, Guo Y, Qureshi AA: Autoimmune, atopic, and mental health comorbid conditions associated with alopecia areata in the United States, JAMA Dermatol, 2013; 149: 789―794.
8)保母 彩子, 入澤 亮吉, ほか: 原発性瘢痕性脱毛症65例の検討, 日皮会誌, 2011; 121 巻 10 号: p. 2065-2072
9)Ikeda T: A new classification of alopecia areata, Dermatologica, 1965; 131: 421―445
10)Messenger AG, McKillop J, Farrant P, McDonagh AJ,
Sladden M: British Association of Dermatologists’ guidelines for the management of alopecia areata 2012, Br J
Dermatol, 2012; 166: 916―926.