アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の原因は解明されていませんが、遺伝的な体質と環境要因の2つが合わさることで発症します。
日本人では約10人に1人がアトピー性皮膚炎を持っているというデータがあります。

生後2~3か月ごろから顔にはじまり、徐々に肘、ひざの内側、体に治りにくく、かゆみのある湿疹ができ、慢性に長期間続きます。

子供のころにしっかりと皮膚科専門医の適切な治療を受けることで、重症化の予防や子供ののうちに完治させることが可能な病気です。

アトピー性皮膚炎の定義

  1. 1.かゆみがある
  2. 2.乳児の場合は顔、小児の場合は関節、成人の場合は上半身に特徴的な左右対称の湿疹病変がある
  3. 3.1歳未満の乳児で2ヶ月以上、1歳以上では6ヵ月以上、慢性的に繰り返す

アトピー性皮膚炎の原因

遺伝的な素因(アトピー素因、バリア機能の低下)と環境的な素因(アレルゲンへの曝露、気温、湿度など)が合わさることで発症すると考えられています。

乾燥や遺伝的な素因で皮膚のバリア機能が低下していると、外部からの刺激を受けやすい状態になります。ここに、アレルゲン(ダニやハウスダスト、食物など)や汗、細菌、ウイルスなどが容易に侵入し皮膚の炎症を起こします。

近年、フィラグリン遺伝子の異常がアトピー性皮膚炎に関係していることがわかりました。
フィラグリンは皮膚の一番外側の角質細胞がつくるタンパク質で、皮膚のバリアを強くする働きや潤いを保つ働きを持っています。このフィラグリンの遺伝子に変異があると、フィラグリンが減り皮膚のバリア機能が弱くなってしまいます。

アトピー性皮膚炎と診断されている日本人の10~30%がフィラグリン遺伝子の変異を持っているといわれています。

皮膚のバリア機能とアトピー性皮膚炎

皮膚の表面は角質層と呼ばれる層に覆われており、レンガとセメントを積み上げたような構造になっています。
このレンガに例えられる部分が、天然保湿因子をもつ角質細胞であり、セメントに例えられる部分がセラミドなどの細胞間脂質にあたります。健康な皮膚の場合、このように角質層の細胞がレンガ状に綺麗に整って並んでおり、外部のアレルゲンとなる(細菌や食べ物、花粉などの)刺激から皮膚を守り、水分をしっかり保つことができます。

しかし、アトピー性皮膚炎や乾燥した皮膚の状態などの場合、角質細胞のレンガ配列が乱れ、天然保湿因子とセラミドが減少します。
このため、外部刺激や皮膚に侵入しやすく、水分が蒸発しやす状態となってしまいます。

健康な皮膚の状態 刺激や異物を跳ね返す
乾燥した皮膚の状態

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎は、生後2ヶ月頃から始まることが多く、湿疹が慢性的に続きますが、成長につれて湿疹が軽快することが多い傾向にあります。

乳幼児期の湿疹は食物アレルギーが関係することもあります。

乳幼児(2歳未満)
  • 口の周りや頬、首、頭にジクジクした湿疹がでる
  • 1歳前後から次第に乾燥した湿疹が増える
幼児期・小児期(2歳~12歳)
  • 顔の症状は軽くなる
  • 首、脇の下、肘や膝の内側に乾燥した湿疹がでる
思春期・成人期(13歳以上)
  • 顔や首など上半身を中心に治りにくい湿疹がでる
  • 顔全体が赤くなる

アトピー性皮膚炎の患者さんが発症しやすいと言われる病気

アレルギー疾患

喘息やアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎など

眼疾患

アトピー性白内障やアトピー性網膜剥離といわれる視力低下が起こることがあります。目の周りの湿疹が強く、まぶたを掻いたり叩いたりする行動が原因の一つと言われています。掻くことで白内障、叩くことで網膜剝離のリスクが上がるため、定期的な眼科の受診が大切です。また、ステロイドを漫然と目の周りに塗ることで、緑内障を引き起こす場合がありますので注意が必要です。

皮膚感染症

伝染性膿痂疹(とびひ)や伝染性軟属腫(みずいぼ)、カポジ水痘様発疹症など細菌やウイルスの感染にかかりやすくなります。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎は遺伝や環境など様々な要素が原因で起こる病気で、病気そのものを根治させる治療法はありません。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018では「症状がない、あるいは軽度で日常生活に支障がない状態を、スキンケアと少しの薬物療法で維持できること」と治療の目標が記されています。そのため、アトピー性皮膚炎の治療は症状をコントロールするために行います。

アトピー性皮膚炎の治療(薬物療法)

アトピー性皮膚炎では、有効性や安全性の面から塗り薬を基本として治療を行っています。

かゆみを抑えるためには、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の飲み薬の併用や重症な場合は、ステロイドやシクロスポリンなどの飲み薬を短期間使用することもあります。
また、過剰な免疫を抑える効果のある紫外線療法を併用することもあります。

塗り薬、飲み薬などの治療を行っても、十分な効果が得られない難治性のアトピー性皮膚炎の場合は、デュピルマブという注射薬による治療が2018年4月よ適用できることになりました。
また、関節リウマチの治療薬として使用されている飲み薬、バリシチニブが2020年から、ウパダシチニブが2021年からアトピー性皮膚炎でも利用できるようになりました。

アトピー表

塗り薬

塗り薬表

塗り薬の塗り方

“1 Finger Tip Unit(1 FTU)”という考え方があり、「チューブに入っている塗り薬は、人差し指の先から第1関節までの長さまで縦に出した分の量を手のひら2枚分の面積に塗るのが適量」という目安になります。ローションの場合、1円玉硬貨の大きさ分が手のひら2枚分の面積に塗るのが適量です。

塗り薬は適切な量を使うことで十分な効果を得ることができます。たっぷり塗るということを意識して使用してください。お薬を塗ったあとに、ティッシュをのせたらくっついて落ちない程度にしっかり塗るようにしましょう。

飲み薬

抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬

アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う湿疹が発生します。掻くことで炎症が悪化し、さらにかゆくなります。かゆみを抑えるために、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬をを外用療法と併用する場合があります。

シクロスポリン

シクロスポリンは過剰な免疫反応を抑える飲み薬です。
16歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんで、ステロイド外用薬やタクロリムス外用剤などこれまでの治療で十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲にある場合に、一時的な使用を検討します。(最大で12週間)

<副作用等>
血圧上昇、腎機能障害、多毛、歯肉炎などの副作用がでる可能性があります。そのため、定期的な血圧測定や血液検査が必要です。
ほとんどの副作用は薬の中止によってもとに戻ります。

バリシチニブ・ウパダシチニブ

JAK/STATシグナル伝達経路を阻害することで、かゆみや炎症を抑え、皮膚のバリア機能低下を抑制する効果があります。

<副作用等>
感染症の悪化、消化管穿孔、肝機能障害などの副作用があるため、事前に血液検査やレントゲン検査が必要です。
内服開始後も定期的な検査が必要になります。

注射薬

2018年より使用可能となった注射薬です。アトピー性皮膚炎の原因に関わる分子をターゲットとし、炎症に関わる免疫細胞が出す
物質の働きを抑えることで、湿疹やかゆみを抑えることができます。

アトピー性皮膚炎の治療(悪化因子の除去)

アレルゲン・アレルギー

食物アレルゲン

乳児期は卵や牛乳、小麦などの食物アレルギーが原因となることがあります。
しかし、血液検査(特異的lgE検査)で陽性になったことだけを根拠に食物を除去する必要はありません。

経過や皮膚テスト、負荷試験などを行い、総合的に判断することが大切です。

環境アレルゲン

ダニ、花粉、ペットの毛などによって症状が悪化する場合があります。
ダニ対策、花粉対策などの対策を行いましょう。

ダニ対策)

  • ・布団やベットに掃除機をかける
  • ・週1回はシーツを交換する
  • ・ぬいぐるみなどは寝室におかない など

花粉対策)

  • ・マスクや眼鏡を着用して花粉を取り込まないようにする
  • ・帰宅後は衣類の花粉を落とし、洗顔・洗髪などで付着した花粉を早めに流すなど

ペット対策)

  • ・定期的にペットを洗う、寝室にはペットを入れないようにするなど

接触アレルギー

日常的に使用するもの(外用薬、化粧品、金属、香料など)に含まれる成分に対するアレルギーが皮疹の原因となっていることもあります。
接触性皮膚炎が疑われる場合は、パッチテストで原因を検索していきます。

その他の悪化因子

接触刺激

過敏になっている皮膚では、衣類やご自身の髪の毛の先端が接触した刺激でもかゆみを感じることがあります。
また、シャンプーやリンスなどの刺激によって症状が悪化することもあります。
皮膚に直接接触する衣類などは綿素材のものを選ぶ、顔回りに髪が触れないように髪を束ねておくなど工夫をしましょう。

汗による刺激

汗をかくこと自体は良いことですが、汗をかいたまま放っておくと汗による刺激で症状が悪化することがあります。

汗をかいたら、濡らしたタオルで拭く、シャワーを浴びるなどのこまめな対策を心がけましょう。

精神的ストレス

思春期以降は、学校や仕事のストレスや緊張、睡眠不足などが原因で皮膚炎が悪化することがよくあります。

ストレスをうまく解消し、十分な睡眠を確保するようにしましょう。

アトピー性皮膚炎の治療(スキンケアについて)

皮膚のバリア機能を高めるために、正しいスキンケアを継続して行いましょう。
アトピー性皮膚炎のスキンケアの基本は入浴と保湿です。

入浴

ぬるめの温度(38℃~40℃)で入浴
低刺激性の石けん等で優しく洗い、十分にすすぐこと

熱いお湯(42℃以上)は、皮膚バリアの回復を低下させることやかゆみが誘発されることが科学的にわかっています。

一方で、36℃~40℃の温度の場合、成熟した角質の形成を促し、皮膚バリアを回復すると言われています。

入浴はぬるめの温度にしましょう。

また、身体などを洗う際には、低刺激性の石けん等を使用し、しっかりと泡立ててから指の腹で優しく洗うようにしましょう。石けん等はしっかりと洗い流してください。

保湿

1日2回(朝夕)の保湿を入浴後30分以内に保湿剤を塗りましょう

保湿効果は1日1回よりも1日2回(朝夕)の方が高いことが分かっています。
入浴後や洗顔後など、30分~1時間の間に肌は急速に乾燥するため、入浴や洗顔後は、
30分以内に保湿剤などで肌を保護しましょう。

病院で処方できる保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤や尿素製剤、ワセリンなど)の他、市販でも低刺激性で保湿効果の高いものもあります。
ご自身の肌に合うものを探しましょう。

赤ちゃんの頃から保湿を行うことで、アトピー性皮膚炎の発症を予防できる可能性があるという研究結果があります。
ご両親のいずれかがアトピー性皮膚炎の場合、お子さんも遺伝的にアトピー素因を持っている可能性が高くなるという研究報告もあるため、赤ちゃんの時から保湿をするようにしましょう。

日常生活の注意点

ステロイド外用薬を使用すると、「肌が黒くなる」というご相談をいただくことがあります。
これは、ステロイド外用薬によって皮膚の赤みや炎症が抑えられたことにより、炎症後色素沈着が目立つようになったという状態です。

炎症が長引くことにより、メラニンを作る細胞(メラノサイト)が刺激され、皮膚に黒い色素(メラニン色素)が生成されます。

炎症後色素沈着をなるべく残さないためにも、早い段階でステロイド外用薬を使用して炎症を納めることが重要です。

痒いところを掻いてしまうと、痒みがつよくなります。痒みが強く我慢できない場合は、氷や保冷剤で冷やすなど痒みを抑えるための対策を行いましょう。また、寝ている時に掻いてしまうという場合は、長袖・長ズボン、手袋などの着用も有効なことがあります。

なかなか痒みが止まらないという場合には、遠慮なくご相談ください。

文責:みのお花ふさ皮ふ科 院長 角村 由紀子(皮膚科専門医) 

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