温清飲(うんせいいん)は、「皮膚が乾燥してカサカサしているのに、赤くてかゆい」という一見矛盾した皮膚症状に処方される漢方薬です。アトピー性皮膚炎や慢性湿疹、皮膚炎が長引いてなかなか治まらない方に対し、皮膚科専門医が体質改善の目的で選択する代表的な内服漢方製剤の一つです。
実は温清飲は、「体を潤す力」と「熱を冷ます力」というまったく反対の働きを持つ2つの漢方薬を組み合わせた、絶妙なバランスの処方です。この「盾と矛」ともいえる二刀流の作用が、西洋薬では対処しにくい慢性皮膚症状に効果をもたらします。本記事では、温清飲の作用機序から使い方、薬価まで、皮膚科専門医の視点で詳しく解説します。
1. 温清飲とは
温清飲は、漢方の古典『万病回春(まんびょうかいしゅん)』(明代)に収載された処方に基づくエキス製剤です。医療機関では「ツムラ温清飲エキス顆粒(医療用)」(ツムラ・57番)や「クラシエ温清飲エキス細粒」など、複数メーカーのエキス顆粒・細粒として処方されます。
漢方医学では、体の栄養や潤いを担う「血(けつ)」が不足した状態を「血虚(けっきょ)」、体に余分な熱がこもった状態を「血熱(けつねつ)」と呼びます。温清飲は、この血虚と血熱が同時に存在する複雑な病態に対する基本処方として知られています。
名称の由来は、「温(補血・温養)」と「清(清熱・冷却)」という相反する2つの作用を一剤で発揮することに由来します。

2. 温清飲の特徴
温清飲の最大の特徴は、「四物湯(しもつとう)」と「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」という2つの処方を合わせた合方(ごうほう)である点です。それぞれ正反対の性質を持つ処方を組み合わせることで、乾燥と炎症が混在する複雑な皮膚症状に対応します。
●「潤すチーム」:四物湯(しもつとう)の4生薬
| 生薬名 | 読み方 | 主な働き |
|---|---|---|
| 当帰 | とうき | 血行促進・補血・抗炎症 |
| 地黄 | じおう | 滋養強壮・補血・皮膚の潤い補充 |
| 芍薬 | しゃくやく | 镇痛・鎮痙・筋肉の緊張緩和 |
| 川芎 | せんきゅう | 血行促進・頭痛や冷えの改善 |
四物湯グループは、全身に「血」を補い循環を改善することで、皮膚に栄養と潤いを届け、カサつき・乾燥・色素沈着を改善する「体の内側を温め潤す」役割を担います。
●「冷ますチーム」:黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の4生薬
| 生薬名 | 読み方 | 主な働き |
|---|---|---|
| 黄連 | おうれん | 消炎・解熱・鎮静 |
| 黄芩 | おうごん | 抗炎症・解熱・抗アレルギー |
| 黄柏 | おうばく | 抗菌・消炎・収斂 |
| 山梔子 | さんしし | 清熱・鎮静・止血 |
黄連解毒湯グループは、体にこもった余分な熱を発散・冷却することで、皮膚の赤み・かゆみ・のぼせ・炎症を鎮める「体の外側を冷ます」役割を担います。
●合方による独特の作用
2つのグループが協力することで、単剤では対応できない「乾燥しているのに炎症がある」複雑な状態をバランスよく整えます。具体的には次の3点が温清飲の特徴として挙げられます。
- 乾燥と炎症を同時に改善:補血(潤し)と清熱(冷まし)を一剤で行う
- 血行改善・肌のターンオーバー促進:肌のくすみ・色素沈着にもアプローチ
- ホルモンバランスへの作用:当帰・地黄・川芎がホルモン調整に関与し、生理周期に伴う皮膚症状の悪化にも対応
3. 適応疾患と服用方法
適応疾患
ツムラ温清飲エキス顆粒の添付文書に記載された効能・効果は以下のとおりです。
「皮膚の色つやが悪く、のぼせるものに用いる。月経不順、月経困難、血の道症、更年期障害、神経症」
皮膚科領域では、上記効能に加えて次の疾患・症状に対して積極的に使用されます。
- アトピー性皮膚炎(慢性期・乾燥型)
- 慢性湿疹・皮膚炎(長引く赤みとカサつきが混在するタイプ)
- 皮膚の色素沈着・くすみ(搔き壊し後に茶色く残るタイプ)
- 酒さ(しゅさ)(顔面のほてり・赤みを伴うタイプ)
- 乾癬(かんせん)の慢性期(補助的)
特に「赤いけれどカサカサしている皮膚炎」「体が温まるとかゆみが強まる」「皮膚の色つやが悪くのぼせ気味」という症状パターンに向いています。逆に、ジュクジュクした急性湿疹や熱感の強い急性炎症には適しないことが多く、病態に合わせた選択が重要です。
服用方法
通常、成人には1日7.5g(1包2.5g)を2〜3回に分けて、食前または食間(食後2〜3時間後)に水または白湯で服用します。
3つの重要ポイント
- 食前または食間の服用が基本:消化管での生薬成分の吸収を高めるため、空腹時に服用します。食後に飲むと効果が弱まる可能性があります。
- 水または白湯で服用する:お茶・コーヒー・ジュースなどに含まれるタンニンやカフェインが生薬の成分と反応して効果に影響を与える可能性があるため避けます。
- 体質改善が目的のため継続が大切:即効性を期待する薬ではなく、通常数週間〜1か月程度で効果を実感し始めることが多いです。医師の指示に従い、少なくとも1〜3か月を目安に継続することが推奨されます。
4. 使用する上の注意点
漢方薬は自然由来の生薬からできていますが、副作用がないわけではありません。
●主な副作用
- 食欲不振、胃部不快感、吐き気
- 軟便、下痢、腹痛
- 発疹、かゆみ
これらは服用開始後1〜2週間以内に現れることが多く、多くの場合は一時的なものです。消化器症状が続く場合は用量調整や服用タイミングの変更(食直後への変更)で改善することがあります。
●重大な副作用(頻度は稀ですが要注意)
- 間質性肺炎:発熱・空咳・息切れ・呼吸困難が現れた場合はただちに服用を中止し受診
- 肝機能障害・黄疸:体のだるさ・皮膚や白目が黄色くなる・食欲不振が続く場合は受診
- 腸間膜静脈硬化症:山梔子(サンシシ)を含む処方の長期服用で報告される大腸の壁が硬くなる病変。長期(5年以上)の継続服用では定期的な経過観察が必要です。腹痛・下痢・便秘・腹部膨満が続く場合は受診してください。
●こんな方は事前に医師にご相談を
- 胃腸が弱く、下痢をしやすい方:四物湯の地黄が胃腸を弱めることがあります
- 妊娠中・妊娠の可能性がある方:当帰・川芎・地黄は子宮収縮作用を持つ可能性があり、自己判断での使用は避けてください
- 授乳中の方:生薬成分が母乳に移行する可能性があります
- 著しく体力が低下している方・高齢の方:消化器への負担に注意が必要です
- 他の薬を服用中の方:漢方同士の重複(例:他の四物湯・黄連解毒湯を含む処方との併用)に注意が必要です
●「合わないタイプ」を見極める
温清飲は体力が「中等度(虚証でも実証でもない)」の方向けの処方です。体力が極端に低下した「虚証」の方には、負担が大きくなる場合があります。また、ジュクジュクと湿潤している急性湿疹や、冷えが主体の皮膚症状には適していないことが多く、症状のタイプに合わせた使い分けが重要です。
●日常生活での注意
- アルコール:生薬の代謝に影響が出る可能性があるため、服用中は控えめにしてください
- 自動車運転:眠気を起こす成分は含まれていないため、運転への影響は基本的にありません
- 市販品:ドラッグストアでもOTC漢方製剤として購入できますが、処方内容が異なる場合があり、皮膚科疾患への使用は医師に相談の上で医療用製剤を使用することをおすすめします
5. 薬価と費用
漢方製剤は医薬品の性質上、先発品・後発品の区分が設けられていません。複数の製薬会社がそれぞれ独自に製造販売しており、薬価はメーカーによって異なります。
以下は2026年度薬価基準(2026年4月改定)に基づく代表的な温清飲エキス製剤の薬価です。通常用量(1日7.5g)で計算しています。
| 製品名 | 製造販売 | 薬価(1gあたり) | 30日分の薬価 | 30日分・3割負担額 |
|---|---|---|---|---|
| ツムラ温清飲エキス顆粒(医療用) | ツムラ | 約17.3円 | 約3,893円 | 約1,168円 |
| クラシエ温清飲エキス細粒 | 大峰堂薬品工業 | 15.3円 | 約3,442円 | 約1,033円 |
※薬剤費のみの目安です。別途、診察料・処方箋料・調剤料などが加算されます。
※漢方製剤は先発品・後発品の区別がないため、「選定療養費(長期収載品の追加負担)」の対象にはなりません。
6. FAQ(よくある質問)
Q1: 温清飲はどんな皮膚症状に向いていますか?
Q2: 温清飲はどれくらいで効き始めますか?
Q3: アトピー性皮膚炎のステロイド外用薬と一緒に使えますか?
Q4: 温清飲と市販薬の温清飲は同じものですか?
Q5: 温清飲は女性向けの薬ですか?男性でも使えますか?
Q6: 長期服用しても大丈夫ですか?
Q7: 妊娠中に服用できますか?
7. 皮膚科専門医解説 要点まとめ
- 処方構成:四物湯(補血・潤し)+黄連解毒湯(清熱・冷まし)の合方。漢方の古典『万病回春』に由来する歴史ある処方
- 適したタイプ:「乾燥しているのに赤くかゆい」慢性皮膚炎、アトピー性皮膚炎(慢性・乾燥型)、色素沈着、酒さなど
- 服用法:1日7.5gを2〜3回に分け、食前または食間に水か白湯で服用
- 効果発現:体質改善型のため数週間〜1か月が目安。1〜3か月の継続が推奨される
- 注意点:山梔子含有のため長期服用(5年以上)では腸間膜静脈硬化症に注意。胃腸の弱い方・妊娠中の方は要相談
- 費用:ツムラ製30日分 約1,168円(3割負担)。漢方製剤は先発・後発の区別なし
皮膚症状の改善には、病態に合った漢方薬を選ぶことが大切です。温清飲が「合うタイプ」かどうかは、体質や症状を総合的に判断する必要があります。自己判断での長期服用は思わぬ副作用につながることもあるため、専門医への相談をおすすめします。
大阪の花ふさ皮ふ科グループでは、患者さんのライフスタイルに合わせた最適な皮膚炎・アトピー治療をご提案しています。 「乾燥して赤みのある皮膚炎が続いている」「漢方治療を取り入れたい」とお悩みの方は、お気軽にご相談ください。皮膚症状のご相談は、大阪の花ふさ皮ふ科グループへ。
参考文献
- 日本皮膚科学会. 湿疹診療ガイドライン2020. 日本皮膚科学会雑誌 2020;130(9):1881-1903.
▶ 国内における湿疹・皮膚炎の標準的な診療指針。漢方薬(温清飲を含む)は、体質改善・症状緩和を目的とした補完的治療として記述されており、西洋薬との併用が推奨されることもある。 - 谷川七海, 李峰, 新口加奈子, 長谷川景太, 千葉殖幹. 皮膚の乾燥及びかゆみに対する温清飲の効果. 医学と薬学 2024;81(5):317-328.
▶ アトピー誘発モデルマウスを用いた基礎研究。温清飲の服用によりかゆみ(掻く回数)の有意な抑制、肌水分量の回復、表皮肥厚の改善、鱗屑(粉ふき)の抑制が示された。温清飲の皮膚バリア回復作用の科学的根拠の一つ。 - 株式会社ツムラ. ツムラ温清飲エキス顆粒(医療用)添付文書(第12版). 承認番号:16100AMZ03256000.
▶ 製造販売元による公式情報。効能効果・用法用量・禁忌・副作用(間質性肺炎・肝機能障害・腸間膜静脈硬化症)・相互作用が詳細に記載されており、本記事の薬学的記述の主要な根拠。


