【医師監修】|2026.05.19|カテゴリ:乾癬/生物学的製剤
トルツ(一般名:イキセキズマブ)は、炎症の連鎖を引き起こすサイトカイン「IL-17A」をピンポイントで封じ込める、ヒト化モノクローナル抗体製剤です。ステロイド外用薬やビタミンD3外用薬、光線療法といった従来治療では十分に改善しなかった中等症〜重症の乾癬に対し、2016年の国内承認以来、皮膚科診療で広く処方されてきた生物学的製剤(バイオ医薬品)の一つです。
「赤みと大量の鱗屑(りんせつ)が全身に広がってしまった」「関節の痛みまで出てきた」「光線療法や飲み薬を試したが改善しない」——そんなお悩みに、皮膚科専門医の視点でトルツの作用・投与方法・注意点・費用まで詳しく解説します。
1. トルツ(イキセキズマブ)とは
トルツ(一般名:イキセキズマブ)は、ヒト化抗ヒトIL-17A IgG4モノクローナル抗体製剤に分類される皮下注射薬です。日本イーライリリー株式会社が製造販売しており、米国では2016年3月に世界で初めて承認され、日本でも同年7月に承認・11月に薬価収載されました。
乾癬では、免疫細胞(Th17細胞など)が過剰に産生するインターロイキン-17A(IL-17A)が炎症反応を増幅させ、皮膚の角化細胞を過剰に増殖させることが病態の中心的な機序の一つとされています。トルツはこのIL-17Aに高い親和性(解離定数3 pM未満)で結合・中和することで、炎症と表皮の異常増殖という「悪循環の根本」を断ち切るよう設計された薬剤です。
「トルツ(Taltz)」という名称は製品固有の商品名で、英語表記はTaltzです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | トルツ皮下注80mgシリンジ/トルツ皮下注80mgオートインジェクター |
| 一般名 | イキセキズマブ(遺伝子組換え) |
| 製造販売 | 日本イーライリリー株式会社 |
| 分類 | ヒト化抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤(IL-17A阻害薬・生物学的製剤) |
| 剤形 | 皮下注射液(80mg/mL) |
| 国内承認年 | 2016年7月(皮膚科適応)、薬価収載2016年11月 |
| 後発品 | なし(2026年5月時点) |
2. トルツの特徴
トルツの最大の特徴は、IL-17Aという「炎症命令物質」を直接ブロックする高い標的特異性にあります。これにより乾癬の皮膚症状と関節症状の両方に作用する点が、他の薬剤にはない強みです。
●IL-17Aを標的とした高い選択性
従来の免疫抑制薬(シクロスポリンなど)が免疫系全体を抑えるのに対し、トルツはIL-17Aという1つの”炎症シグナル”にのみ結合します。”広範な爆撃”ではなく”精密誘導ミサイル”のような作用イメージです。IL-17AとIL-17A受容体の結合を阻害し、炎症反応の増幅を源流で遮断します。
●皮膚症状と関節症状の両方に有効
尋常性乾癬の皮疹改善だけでなく、乾癬性関節炎(関節の痛み・腫れ・こわばり)に対しても承認されています。皮膚と関節の症状を同時に持つ患者さんに、1剤でアプローチできるのが大きな利点です。
●オートインジェクターで自己注射が可能
医師が適切と判断した場合、オートインジェクター(自動注射器)を用いた自己注射が認められています。在宅での投与が可能なため、毎回通院する手間を減らすことができます。シリンジタイプも選択でき、患者さんのニーズや習熟度に応じて剤形を選べます。
●維持期は4週間隔の投与(月1回ペース)
導入期(初回〜12週)を過ぎると、原則として4週間隔(月1回)の皮下投与に移行します。安定した治療効果を保ちながら、通院・自己注射の頻度を抑えられる設計です。
●後発品(バイオシミラー)はなし
2026年5月時点で、イキセキズマブのバイオシミラー(後発生物学的製剤)は国内未収載です。使用にあたっては先発品のトルツのみが選択肢となります。
3. 適応疾患と使用方法
適応疾患(皮膚科関連を中心に)
トルツの適応症は次のとおりです(いずれも「既存治療で効果不十分な」ことが条件)。
皮膚科領域
– 尋常性乾癬(皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ、または難治性皮疹・関節症状・膿疱を有する患者)
– 乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
– 膿疱性乾癬
– 乾癬性紅皮症
整形外科・リウマチ科領域
– 強直性脊椎炎
– X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎
投与方法
〈尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症〉
| 時期 | 用量・間隔 |
|---|---|
| 初回(0週) | 160mg(80mg製剤を2本)皮下投与 |
| 2週〜12週 | 80mg を2週間隔で皮下投与(計6回) |
| 12週以降(維持期) | 80mg を4週間隔で皮下投与 |
| ※12週時点で効果不十分な場合 | 80mgを2週間隔に継続可 |
〈強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎〉
通常、成人には1回80mgを4週間隔で皮下投与します(導入期の増量なし)。
3つの重要ポイント
- 治療反応は20週以内が目安:添付文書では「通常投与開始から20週以内に治療反応が得られる」と記載されており、20週以内に効果が見られない場合は治療継続を再考します。
- 他の生物学的製剤との併用は避ける:安全性・有効性が確立されていないため、他の生物製剤との同時投与は行いません。
- 注射部位をローテーションする:毎回同じ部位に打つと硬結の原因になります。上腕・腹部・大腿などで部位を変えましょう。
4. 使用する上の注意点
生物学的製剤は高い有効性と引き換えに、免疫系への影響があります。以下の点を必ず確認してください。
●主な副作用
- 鼻咽頭炎、上気道感染(最も頻度が高い)
- 注射部位反応(発赤・疼痛・腫れ)
- 口腔カンジダ症・食道カンジダ症(白癬感染含む)
- 結膜炎、鼻炎
- インフルエンザ
カンジダ症(真菌感染)が他のIL-17阻害薬と同様に報告されており、口や食道に白いコーティングや痛みが出た場合は早めに受診してください。
●重大な副作用(頻度は稀ですが要注意)
- 重篤な感染症(0.4%):ウイルス・細菌・真菌による重篤な感染症
- 重篤な過敏症反応(0.1%):アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹
- 好中球数減少(0.6%)
- 炎症性腸疾患(0.4%):クローン病、潰瘍性大腸炎の増悪
- 間質性肺炎:咳嗽、呼吸困難、発熱が持続する場合は即受診
発熱・全身倦怠感・呼吸困難・激しい腹痛・血便などが現れた場合は、ただちに投与を中止し医療機関を受診してください。
●禁忌(使用できない方)
- 重篤な感染症を有する患者(症状悪化のおそれ)
- 活動性結核の患者
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴を有する患者
●投与前に必須の検査
- 結核スクリーニング:インターフェロンγ遊離試験(IGRAまたはツベルクリン反応)+胸部X線検査。結核の既往歴・濃厚接触歴がある場合は、抗結核薬の予防投与を行った上で投与します。
- 肝炎ウイルス検査(B型肝炎ウイルスの既感染者では再活性化に注意)
●こんな方は事前に医師にご相談を
- 感染症(特に慢性・反復性の感染症)にかかりやすい方
- 炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)の既往がある方
- 悪性腫瘍の治療中・既往がある方
- 妊娠中・授乳中、妊娠の可能性がある方(動物実験で胎児への移行が報告されているため有益性が危険性を上回る場合のみ)
- 高齢の方、免疫機能が低下している方
●日常生活での注意
- 生ワクチン接種は禁忌:投与期間中は生ワクチン(麻疹・風疹・水痘・BCGなど)を接種しないでください。
- 感染症への注意:免疫が部分的に抑えられるため、発熱・倦怠感など感染症を疑う症状が出た場合は早期受診を心がけてください。
- 自動車運転への制限はありません。
- 市販はされておらず、必ず専門医の処方・管理のもとで使用する薬剤です。
5. 薬価と費用
トルツは高額療養費制度や医療費助成制度(難病医療費助成など)の対象となる可能性があり、患者さんの実際の負担は薬価からそのまま計算した額よりも大幅に軽減されることが多いです。まずは主治医や医療ソーシャルワーカーに制度の活用をご相談ください。
薬価(2026年度薬価基準(2026年4月改定))
| 製品名 | 規格 | 1本あたりの薬価 |
|---|---|---|
| トルツ皮下注80mgシリンジ | 80mg1mL1筒 | 148,952円 |
| トルツ皮下注80mgオートインジェクター | 80mg1mL1キット | 148,952円 |
| 後発品(バイオシミラー) | ― | なし(2026年5月時点) |
投与パターン別の薬剤費概算(3割負担の場合)
| 期間 | 投与本数 | 薬価合計(目安) | 自己負担(3割・目安) |
|---|---|---|---|
| 導入12週(0週〜12週、計8本) | 8本(160mg初回×1+80mg×7) | 約1,191,616円 | 約357,485円 |
| 維持期1か月(4週ごと1本) | 1本 | 148,952円 | 約44,686円 |
| 維持期3か月(4週×3回) | 3本 | 446,856円 | 約134,057円 |
※薬剤費のみの目安であり、別途診察料・処方料・注射手技料などが加算されます。
※高額療養費制度の自己負担限度額を超えた分は払い戻しの対象となります。乾癬が指定難病に認定された方は、難病医療費助成制度による自己負担上限の適用もご確認ください。
6. FAQ(よくある質問)
Q1: トルツはどんな乾癬に使われますか?
A1: 光線療法や内服薬などの既存の全身療法(生物製剤を除く)で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合、または難治性の皮疹・関節症状・膿疱を有する場合に投与が検討されます。軽症の乾癬には外用薬が優先されます。
Q2: 自己注射はできますか?
A2: 医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した上で、患者さん自身が確実に投与できると確認された場合に限り、オートインジェクターまたはシリンジによる自己注射が可能です。最初の投与は必ず医療機関で医師の監督下に行います。
Q3: 効果が出るまでどれくらいかかりますか?
A3: 個人差はありますが、導入初期(2〜4週頃)から皮疹の改善を実感する方も多く、12週時点での皮膚症状改善率(PASI 75達成率)は臨床試験で高い成績が示されています。添付文書上は「通常20週以内に治療反応が得られる」とされており、20週を超えても効果が見られない場合は治療継続の見直しが必要です。
Q4: コセンティクス(セクキヌマブ)との違いは何ですか?
A4: トルツとコセンティクスはどちらもIL-17A阻害薬で、作用ターゲットは同じです。トルツはIL-17AのIgG4抗体、コセンティクスはIgG1抗体という分子クラスの違いがあります。臨床上の使い分けは効果や副作用の個人差、投与間隔の希望などを考慮して医師が判断します。
Q5: 結核の検査は必ず必要ですか?
A5: 必須です。 生物学的製剤はすべて免疫を部分的に抑えるため、潜在性結核が活動化するリスクがあります。投与前にインターフェロンγ遊離試験(またはツベルクリン反応)と胸部X線検査を行い、活動性結核があれば投与できません。
Q6: 生ワクチンはいつから接種できますか?
A6: 投与期間中は生ワクチンを接種できません。投与中断後も一定期間(薬の体内残存を考慮した期間)は接種が推奨されないため、ワクチン接種の計画は必ず主治医と相談してください。
Q7: 乳がん検診や感染症の風邪などの際はどうすればよいですか?
A7: 重篤な感染症がある場合は投与を中断します。軽度の感染症(一般的な風邪など)では主治医の判断に従います。定期検診・がん検診は通常どおり受けることが推奨されます。本剤との関連性は明らかではありませんが、悪性腫瘍の発現が報告されているため、定期的なフォローアップは欠かさないようにしましょう。
7. 皮膚科専門医解説 トルツの要点まとめ
- 適応:既存治療で効果不十分な尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症に使用するIL-17A阻害薬(生物学的製剤)
- 作用:IL-17AにピンポイントでくっつきIL-17A受容体との結合を阻害。炎症と表皮の過剰増殖という悪循環を根本で遮断する
- 投与:初回160mg→2週間隔で80mgを計6回→維持期は4週間隔80mg。自己注射(オートインジェクター)可能
- 特徴:高い標的特異性、皮膚・関節症状の両方に有効、月1回の維持投与
- 禁忌:重篤な感染症・活動性結核・本剤成分への過敏症既往
- 必須:投与前の結核スクリーニング、投与中の生ワクチン禁止
- 費用:1本148,952円(2026年度薬価基準)。高額療養費制度・難病医療費助成の活用を必ず確認
乾癬は慢性疾患であり、生物学的製剤は高い効果が期待できる一方で、感染症管理などの適切な医師の管理のもとで使用することが重要です。
大阪の花ふさ皮ふ科グループでは、患者さんのライフスタイルに合わせた最適な乾癬・生物学的製剤治療をご提案しています。 「乾癬の皮疹が体の広い範囲に及んでいる」「外用薬や光線療法では改善しない」「関節の痛みも出てきた」とお悩みの方は、お気軽にご相談ください。皮膚症状のご相談は、大阪の花ふさ皮ふ科グループへ。
監修
皮膚科専門医・アレルギー専門医・医学博士 花房 崇明
- 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
- 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
- 医学博士
- 抗加齢医学会専門医
【所属学会】日本皮膚科学会/日本アレルギー学会/日本臨床皮膚科医会/日本美容皮膚科学会/日本抗加齢医学会
参考文献
-
日本皮膚科学会. 乾癬・掌蹠膿疱症ガイドライン2023改訂版. 日本皮膚科学会雑誌 2023.
▶ 乾癬の治療ステップと生物学的製剤の使用基準を示す国内標準ガイドライン。IL-17A阻害薬は中等症〜重症の尋常性乾癬・関節症性乾癬・難治性乾癬に対する有力な治療選択肢として位置づけられている。 -
日本イーライリリー株式会社. トルツ皮下注80mgシリンジ/オートインジェクター 添付文書(第6版, 2024年7月改訂).
▶ 製造販売元による公式情報。適応症・用法用量・禁忌(重篤な感染症・活動性結核・過敏症既往)・副作用・相互作用・結核スクリーニング要件が詳細に記載されており、本記事の薬学的記述の主要な根拠。 -
Griffiths CE, et al. Comparison of ixekizumab with etanercept or placebo in moderate-to-severe psoriasis (UNCOVER-2 and UNCOVER-3). The Lancet. 2015;386(9993):541-51.
▶ 中等症〜重症尋常性乾癬を対象とした第III相国際比較試験。イキセキズマブ投与群はプラセボおよびエタネルセプト投与群と比較して高いPASI 75/90達成率を示し、有効性と安全性が確認された。
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