皮膚科専門医が解説
日本皮膚科学会の診療ガイドラインや国際医学論文に基づき、 アトピー性皮膚炎の原因と 正しい治療法を、 できるだけ分かりやすくまとめました。
「原因は食べ物なの?」「遺伝するの?」「最新治療にはどんな選択肢があるの?」という疑問に対して、 医学的根拠(エビデンス)に沿って解説します。
1. はじめに:皮膚科専門医が伝えるアトピー性皮膚炎の基本知識
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインによると、アトピー性皮膚炎とは 「良くなったり悪くなったりを繰り返す、痒みのある湿疹を主病変とする疾患であり、 患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されています。
分かりやすく言うと、 「かゆみのある湿疹」、 「良くなったり悪くなったりを6ヶ月以上(2歳未満の乳幼児なら2ヶ月以上)繰り返す」、 「アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)を持っている」 という3つが大きな特徴です。
大阪の花ふさ皮ふ科グループでは、皮膚科専門医として患者様一人ひとりのライフスタイルや肌質に寄り添い、 単なる対症療法ではなく、根本的な原因に基づいた適切な治療を提供しています。
ネット上には様々な情報が溢れていますが、今回は 最新の診療ガイドラインに基づく正確な医学的根拠(エビデンス)に沿って、 アトピーの原因と正しい治療法を詳しく解説します。
2. アトピー性皮膚炎の本当の原因とは?
多くの患者様や保護者の方が 「食べ物が原因では?」 「親からの遺伝のせい?」 と思い悩まれています。
しかし、皮膚科専門医の観点から説明すると、アトピー性皮膚炎は 単一の原因で発症するわけではありません。 アトピー素因(アレルギー体質)と皮膚バリア機能の脆弱性(弱さ)などに起因する過敏性を背景に、 様々な要因が複合的に関わる 「多病因性の疾患」 なのです。
大きく分けて、以下の3つの要素が複雑に絡み合って、 発症・悪化を引き起こします。
① 皮膚バリア機能の異常(低下)
正常な皮膚は、表面にある角層という部分とその表面の皮脂膜、 そして角質の間にある「セラミド」によって水分を保ち、 外部からの刺激の侵入を防いでいます。 これを「皮膚のバリア機能」と呼びます。
しかし、アトピー性皮膚炎の患者様では、このセラミドの含有率が異常に低下しており、 主に水分の保持能力が損なわれています。
さらに、皮膚の頑丈なバリア形成に貢献する 「フィラグリン」というタンパク質の 遺伝子変異や発現の低下も確認されています。
この結果、細胞と細胞の間に隙間ができ、 ダニやハウスダスト、カビなどのアレルゲンや刺激物質が 体の中に入り込みやすくなってしまいます。
② 免疫の過剰反応(2型炎症)と遺伝的要因(アトピー素因)
バリア機能が低下し過敏になった皮膚に外部からの刺激が加わると、 皮膚の表皮細胞(ケラチノサイト)から IL-33、IL-25、TSLPといった アトピーの症状を引き起こす物質が放出されます。
これが引き金となり、体内のTh2細胞などの免疫細胞が活性化して、 「2型炎症」という異常な免疫反応を誘導します。 これによりIL-4、IL-13、IL-31などの、 強い炎症やかゆみを引き起こすサイトカイン(シグナル)が大量に産生されるのです。
また、患者様はご本人やご家族に 気管支喘息、アレルギー性鼻炎や結膜炎を持つ方が多い 「アトピー素因」を持っています。 皮膚バリア機能障害や免疫調節機能の障害などには、 こうした遺伝的な要因も関与していることが明らかになっています。
③ 多様な環境要因・悪化要因
バリア機能が低下した皮膚には、日常生活の中の様々な要因が悪化の引き金となります。
- 環境アレルゲン:ダニ、ハウスダスト、カビ、ペットの毛やフケなどが刺激となります。
- 発汗:かいた汗が肌への刺激となり、かゆみが強くなって悪化につながります。
- ストレス・疲労:ストレスを感じると神経から「神経ペプチド」などの物質が放出され、免疫細胞を刺激して炎症やかゆみを悪化させます。
- 気候・住環境:空気が乾燥するとバリア機能が低下し、逆に高すぎる湿度はダニやカビが繁殖しやすくなり、肌への刺激が増える環境を作ってしまいます。
ポイント
アトピー性皮膚炎は、 「体質だけ」でも 「環境だけ」でも説明できません。 皮膚バリア機能の低下、 免疫の過剰反応、 環境要因が重なって悪化します。
3. 皮膚科専門医による最新のアトピー治療アプローチ
アトピー性皮膚炎を「完治」させる特効薬は今のところありませんが、 皮膚科専門医の適切な指導のもとで 「寛解状態」 (かゆみや湿疹など、アトピーの症状がなく日常生活に支障がない状態) を維持することは十分に可能です。
大阪の花ふさ皮ふ科グループでは、 根本的な原因に対する多角的なアプローチを行います。
- プロアクティブ療法: 炎症が治まった後も、定期的にステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を塗布し、 目に見えない皮膚の奥の炎症を抑え込んで再燃を防ぎます。
- 最新の外用薬: 従来のステロイド外用薬やタクロリムス軟膏に加え、 JAK阻害薬「デルゴシチニブ(コレクチム)」や PDE4阻害薬「ジファミラスト(モイゼルト)」など、 副作用の少ない新しい塗り薬による治療法を導入しています。
- 全身療法(生物学的製剤・内服JAK阻害薬): 外用薬だけではコントロールが難しい重症の患者様には、 炎症の原因であるサイトカイン(IL-4、IL-13、IL-31)の働きをピンポイントで抑える 「デュピルマブ(デュピクセント)」や「ネモリズマブ(ミチーガ)」、 内服薬の「ウパダシチニブ(リンヴォック)」 「バリシチニブ(オルミエント)」 「アブロシチニブ(サイバインコ)」を用いた治療を選択肢として提案しています。
治療に関するご不安な点、最新治療の適応については、 大阪の花ふさ皮ふ科グループの皮膚科専門医に ぜひ一度ご相談ください。
4. 【FAQ】アトピー性皮膚炎のよくある質問
※下記の薬価・費用は2024年時点の目安です。実際の窓口支払い額には、再診料、処方料、調剤技術料などが別途加算されます。
Q1. アトピー性皮膚炎の原因は食べ物ですか? 食事制限は必要ですか?
A1. アレルギーを起こしやすい食物という理由だけで、 特定の食物を除去することはガイドライン上も勧められていません。
特に小児における不適切な食事制限は、 成長・発育障害などの深刻な栄養学的問題を引き起こすリスクがあります。
食物アレルギーの関与が疑われる場合でも、まずは皮膚科専門医のもとで ステロイド外用剤などによる抗炎症治療を十分に行い、 皮膚状態を改善した上で原因検索を行うことが大切です。
Q2. アトピー性皮膚炎は親から子どもへ遺伝しますか?
A2. アトピー性皮膚炎自体が必ず遺伝するわけではありませんが、 アレルギーを起こしやすい体質である 「アトピー素因(アレルギー体質)」や、 皮膚バリア機能が弱い体質(フィラグリン遺伝子変異など)は 遺伝的な要因が関与しています。
しかし、実際の発症には環境要因 (ダニ、ほこりなどのほこりっぽい環境や睡眠不足などのストレス等)が大きく重なって起こるため、 幼少期から皮膚科専門医の指導のもとで適切なスキンケアを行うことで、 発症や重症化を防ぐことが期待できます。
Q3. 最新の塗り薬「コレクチム軟膏」の薬価と費用を教えてください。
A3. 免疫細胞の過剰な活性化を抑制するJAK阻害外用薬 「コレクチム軟膏0.5%」の薬価は、 1gあたり約143円です。
通常よく処方される5gチューブ1本で約715円となり、 健康保険が適用され3割負担の患者様の場合は 1本あたり約215円の薬剤費となります。
ステロイドで懸念される皮膚が薄くなるなどの副作用が起こりにくく、 顔や首といった元々皮膚が薄く敏感な部位に長期間塗っても 副作用が出にくいため、アトピーのコントロールに適したお薬です。
Q4. 重症アトピー向けの内服薬「リンヴォック」の費用はどれくらいですか?
A4. 既存の治療で十分な効果が得られない患者様に用いられる 内服JAK阻害薬「リンヴォック」15mg錠の薬価は、 1錠あたり約4,325円です。
1日1回、30日分処方された場合の薬剤費は 月額約129,750円となり、 3割負担の場合の自己負担額は 月額約38,925円となります。
高額な治療となりますが、 高額療養費制度を利用することで、 患者様の所得に応じた月の支払い上限額に抑えることが可能です。
Q5. 生物学的製剤「デュピクセント」の薬価と毎月の費用はいくらですか?
A5. 2型炎症の元となるIL-4とIL-13の働きを直接ブロックする注射薬 「デュピクセント」の薬価は、 300mgペン製剤1本あたり約53,659円です。
通常、初回は2本、以降は2週間に1回1本(月2本)を投与します。 3割負担の場合、1本あたりの自己負担額は 約16,098円となり、 月2回の投与で 月額約32,196円の薬剤費がかかります。
こちらも高額療養費制度の対象となる場合があり、 事前に限度額適用認定証を準備するなどの工夫で、 経済的負担を大きく軽減できます。
5. 参考文献(Evidence)
Weidinger S, Novak N. Atopic dermatitis. Lancet. 2016;387(10023):1109-1122. doi:10.1016/S0140-6736(15)00149-X
▶ アトピー性皮膚炎の病態(皮膚バリア障害・免疫異常・遺伝要因)を包括的に解説した代表的レビュー論文。
Elias PM, Steinhoff M. “Outside-to-inside” (and now back to “outside”) pathogenic mechanisms in atopic dermatitis. J Invest Dermatol. 2008;128(5):1067-1070. doi:10.1038/jid.2008.92
▶ 皮膚バリア機能障害がアトピー性皮膚炎発症の重要な要因であることを示した研究。
Weidinger S, Beck LA, Bieber T, Kabashima K, Irvine AD. Atopic dermatitis. Nat Rev Dis Primers. 2018;4:1. doi:10.1038/s41572-018-0001-z
▶ フィラグリン遺伝子変異や2型炎症(IL-4、IL-13など)など、アトピー性皮膚炎の最新病態を解説した総説。
Katoh N, Ohya Y, Ikeda M, et al. Clinical practice guidelines for the management of atopic dermatitis 2021. J Dermatol. 2021;48(12):e349-e409. doi:10.1111/1346-8138.16070
▶ 日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎診療ガイドライン。診断基準・外用療法・生物学的製剤などの標準治療を解説。
本記事は日本皮膚科学会の診療ガイドラインおよび国際医学論文に基づき、 皮膚科専門医・アレルギー専門医・医学博士の 花房崇明が医学的観点から監修しています。
関連ページ
















